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鬼平犯科帳 鬼平罷り通る 三嶋山燈

鬼平犯科帳 鬼平罷り通る

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5月号 ねぎき鍋


下仁田ネギ

外はみぞれ混じりの師走前、本所二ツ目橋の軍鶏鍋や五鉄。
「おい彦十、こう寒くっちゃぁ何だぁ ほれ!あったけぇもんが恋しくははならねぇかい」

「そりゃもう銕っつあん三島女郎衆がとびっきり、次に控える千住の女郎、
閉めて諦め幕の内ってねぇ。熱々の鍋に高遠の一本葱や千住葱、
深谷葱から矢切葱と数え上げりゃぁ両手が塞がっちまいやさぁ。
けどね、ネギといやぁ この辺りでもう一つ・・・・・」と相模の彦十

「おいもしかして!ネギまとか・・・・・」

「当たり!座布団1枚やっとくれぇじゃぁござんせんがね、
ネギまといやぁ冬の季語ってぇぐれぇのもんで、
さすがぁ当たり前だの百萬石とくらぁね!
ねぎまにゃぁちょいとうるそうござんすよ。

ネギまに合うのは何ったってかかあ天下にからっ風!」

「おい そいつぁ上総国の・・・・・」

「やだねぇそこまで知っていなさるったぁ、
こちとらの出番も失せて下を向きなぁんってね。

当たりも当たり大当たりのコンコンチキ、
下仁田葱ってぇもんで御座んしょう!。

こいつをブッツリ太めに切る、だがお立ち会いとくらぁね、
まな板なんぞで切るなぁとうしろうのやるこってござんすよ!」

「ほほぅ ではどうやって切るってんだぇ?」

「よくぞ訪ねてくだしゃんしたときたもんだ、
岩清水でさっぱり洗った白魚のと言いたくなるようなこの根深、
二っつ3つ小脇に抱え、チョイのチョイのと菜切包丁で素っ首落としやす」

「素っ首たぁ穏やかじゃぁねぇなぁ」

「なぁに所詮は白首ろくろっ首と、ぱぱぱんと切り落とし、こいつを直火で炙りやす。
そうすりゃぁまたまた甘みがまして、そりゃぁもうとろとろの甘葱に変わりやす。

醤油・酒・味醂に昆布と鰹で煮だした出汁で割り下を作りやすがね、
昆布は煮立つ手前で引き上げて粘りを嫌って上品に、
まるでおぼこの白い肌と来たもんだ」

「おい彦十 何と今日のお前ぇは油が回ってよくもまぁ左様にぺらぺらと、
ハァンてぇしたもんだぜ、白粉臭ぇ脂にでもまみれてきたのかえ?」

「こりゃぁお褒めに預かり光栄の行ったり来たりってぇもんでござんしょうかねぇ銕っつあん。
下田葱は焼くに限るってぇやつでござんすよ、
続けてカツオを落として、こっちも煮立つ前に火を落とし、
カツオが沈むまで暫くの待ちぼうけ。

煮立てりゃぁカツオの臭みがお出まし千手(せんじゅ)の観音様、
落ち着きましたら、布で漉し、酒・味醂・醤油を加えて出来上がり。

しいたけ、豆腐を先に煮て、煮立ったところでこの上に程よく切りたるマグロを乗せて、
中火でひいふうみいと色が変わリ目に戴きやす」

「何と講釈聞くだけでこうなんだぁ 
そのぉよだれも出きちまいそうじゃァねぇか!おいまだ食ってはいかんのか?」

「ダメよ~ダメダメ駄目なのよぉ、マグロにネギの香りも移り、
ネギにマグロの脂がからみ、組んずほぐれつ旨味が引き合い究極のネギまと相成りやす。

豆腐、しいたけ・青菜を入れて賑やかに、ちょいと正月料理に飽きた頃、
これに粉山椒を振ってもまたまた美味しくいただけやす。
まぁ下手(げて)物じゃぁござんすがね」

「お前ぇにしちゃぁよく出来てるが、こいつぁ三次郎の受け売りじゃぁねぇのかえ?」

「あいたぁ!さすがは銕っつあんだ、騙せねぇ、お~いおとき酒が切れちまったぜぇ」

「如何でやすこのネギま?」

「うっ 旨ぇ!うむ こってりと脂の乗ったこいつぁ、かなわねぇ、
そんじょそこいらの白首女郎たぁわけが違うぜ彦十」

「さいでやんすかぁ、あっしぁ白首のほうが好みでござんすがねぇ」

「呆れた野郎だ、その白髪頭でまだ口説こうってぇのかえ、
へへん、落とせるもんなら落としてみなよ、なぁおとき」

「はい それは無理と言うもんでしょうねえ長谷川様」

「へぇっ どいつもこいつも食うに食えねぇ焼きハマグリ、
砂がさわって出汁になるぅってかぁ」

ほどほど酔いも回って相模の彦十
「ねぇ銕っつあん八方屋ってぇのをご存知で?」

「おい八百屋じゃぁねぇのかえ?」

「どっこいこいつがふるってやんの 
四方八方なんでも来いってぇところから名付いたそうで、
無鉄砲なの何の、猪獅子みてぇな野郎でござんしてね、
口より手が先に出るから始末が悪い。

誰かれ構わず絡むもんでござんすから、
いつのまにやら野郎のことを皆んなそう呼ぶようになっちまった」

「へぇそんなに喧嘩ぱやいのかえ?」

「早ぇの何ので、手も早ぇ、こないだも弥勒寺前で棒手振りと大げんか、
割って入った御用聞きを平手ですっ飛ばしやがったからいけませんやぁ、
番屋にしょっぴかれて一晩のお泊まりときたもんだ、
野郎すっかりしょげちまって、

朝になったら青菜に塩、かかぁがもらい下げに出向いたら
半月干した大根見てぇにしょぼくれちまって、それでも懲りねぇ八方屋」

これぞと見込んだ奴にゃぁ女郎の世話から見受けの世話、
畳の張替えから障子の具合、床下の手入れからドブ板掃除まで、
銭になることならなんでもござれ、まぁ便利っちゃぁ便利な野郎でござんすよ へい!」

「何と阿呆烏の真似までするのかえ?でそいつがどうした」

それがね銕っつあん両国福井町の米問屋東海屋に鼠が天井裏に巣を造っちまったとかで、
野郎天井裏に潜ったっきり出てこねぇ、かかぁのおしまが心配ぇして
東海屋仁聞きに行ったらその日のうちに帰ぇったて返事で
、神かくしダァなんて騒いでおりやすが、三ツや四ツの餓鬼でもあるめぇしねぇ」

「おいおい 彦!ちょいと待てよ、それじゃァ何かえその何だぁ?
八方屋の名前ぇは何と申した・・・・」

「へぇ彦六で」

「で その彦六だが確かに東海屋はその日の内に帰ぇったと言ったんだな」

「へぇ そのようで・・・・・」

「そいつぁ妙だなぁ東海屋を出たっきり足取りが消えたとなると・・・そ
いつぁ酒や博打はどうなんだえ?」

「それがね 笑っておくんなさいよ、手は早ぇが喧嘩はからっきし、
酒は下戸で付き合いもままならなぇ、丁半博打なんざぁやったこともねぇと、
今どき大黒様の横にでも置いておきてぇくれぇの糞真面目、へへん!面白くも可笑しくもありゃぁしませんやね」

「なるほどのう、聞けば聞くほど妙な野郎だが、
やはりちと気がかりなのは行くかた知れずになったってことよ、
何かがなけりゃぁそうなるはずはねぇ・・・・・」
平蔵少し酔いが冷めてきた思いである。

彦十から出た話の翌日、二本堤の山谷堀土手下に死体が見つかったと番屋に届けがあった。
当番である北町奉行所が確認をとったところでは、身元が行く方知れずの彦六と判明、
死因は絞殺によるものと断定された。

この事件を拾ってきたのはおまさであった。

盗賊改めには直接関係はないものの、平蔵は少々気になっていた。
喧嘩での仕業ならば首を絞めるなんて手間のかかることはやるまい、
同じ殺しなら刃物が早いしそれが常道であるからだ。

「もう一度その東海屋から詳しく探ってみてくれ」
そうおまさに指図を与えた。

このような場合は、小間物などを担いでいるおまさが適役である、
何しろ店の裏方にはおしゃべりの好きな女が一人や二人はかならずいるものである。
案の定、平蔵の読みは的中した。

「中に古株の中居がいまして、あぶらとり紙をこっそり渡して聞きましたら、
あの日彦六は天井裏の鼠の巣を見つけてそれを始末したのが、
昼を回って七つ(午後四時)ころ。

お手当てを頂いて、それを懐に台所でいっぱいお茶を飲んで帰っていったのだそうで
ございますが、その時彦六さんの後をつけるように二人の遊び人が
ついていったそうでございます」

「ふむ そいつらがどこの何者かは判るめぇなぁ」
平蔵腕組みしながらおまさの話を聞いていた。

「あたしもそれは気になったものでございますから、
探ってはみましたが皆目、申し訳ございません」

「ナァにお前ぇのせいじゃぁねぇ気にするな、
すまねぇが粂と彦十に繋ぎを取ってそれからの足取りをもう少し知りてぇ、
聞きこみを続けてはくれぬか?」
平蔵、何か臭うように感じている。

「解りました、早速二人に・・・・」とおまさが出て行った。

彦六の葬儀は簡単なもので、北町から骸を貰い受け、山谷の慶養寺に埋葬された。
二日後、探索をしていた粂八が菊川町の平蔵が役宅に姿を見せた。

「おお 粂 ご苦労だのう、で、何か判ったのだなその面ぁ」

「へぇ 仰るとおりで、彦六の後をつけていた野郎なんでござんすが、
何でも上方訛りの残っていた五十がらみの小柄な男だったようで、
彦十のとっつあんがその辺りを探って、
やっと判ったのが菱垣廻船の船頭だったようでございやす」

「ふむ 上方訛りと聞くからにゃぁそれは大いに有り得る話だのう、
でその先があるのであろう」と先を催促する。

粂八ニヤリを笑って
「そこでさぁ少々苦労は致しやしたが、さすがに相模のとっつあん
まだまだ腕は衰えちゃぁございやせん」

「うんうん でどうした」平蔵さもあらんという顔で粂八に話を促す。

「へぃ地廻りの野郎にちょいとこのぉ・・・」

「鼻薬だなぁ」

「へい 仰る通りで、船頭といやぁ何れもこっち・・」
とツボをかぶらせる仕草に平蔵頷きながら

「で判明いたしたか」

「へぃ いずれも主を持たねぇ流れ船頭、
忙しい時に都合で雇い入れられる野郎たちで、
どうもこいつらぁ素性がよくねぇ、が 汚ぇ仕事も受けるってんで、
結構人気の商売のようで。

この一日そいつらを探して見たんでございやすが、すでに姿は消えたまま・・・・・」

ふ~む 糸が切れたか・・・・・」平蔵少々落胆の様子に

「ですが長谷川様そいつらを雇った雇い主が割れやした」

「おいおい 粂!勿体つけずに早ぇとこ吐いちまいな!
そのまんまじゃぁ身体の毒だははははは」
平蔵消化不良のこの話の先が知りたくてうずううしてきた。

「へぇ 彦十のとっつあんとおまささんとあっしの三人で手分けして探りを入れた所、
どうやらその相手が堺の商人と言う触れ込みの和泉屋太兵衛・・・・・」

「おいちょいと待て!触れ込みだとぉ」
平蔵ここに来てやっと粂八のしたり顔の意味が判った。

そいつぁ商人じゃァなかってぇんだろう」

「仰る通りで、あっしらもこれにゃぁ仰天いたしやした、
何とその野郎の面を拝んで腰を抜かしやしたもんで、へへへへっ!」

「おいおい そいつぁ無かろうぜ、早いとこゲロしちまえ、盗人だったんだろう」

「恐れいりやす、まさにその通り上方からこっちに流しては
ちったぁ知られた盗賊で荒南風(あらはえ)と異名をとった岩蔵」

「何!荒南風の岩蔵だぁ?、聞きなれぬ名だがどんなお勤めをするやろうだ?
凡その見当はつくが」

「へぃ 長谷川様の睨んでおられる通り、
こいつぁ汚ぇ仕事も平気でやってのける危ねぇやろうでございやす。

ただ、問題なのは、こいつと彦六それに船頭のつながりが今一歩読めねぇ、
そこでこうしてあっしが長谷川様に先ずはご報告をと」

「あい判った!よくぞそこまで調べてくれた、ありがてぇ!
そこだがな粂!恐らくは彦六の商売を知って野郎どもが彦六に近づいたのではないかえ?
天井裏といやぁお前ぇどこまでが天井裏だ?」平蔵のしたり顔を見た粂八

「あっ!!」

「そうよ!ここまでってぇ決まりはない、ってぇことは・・・・・」

「金の隠し場所でも近づける」
粂八やっとからくりが解けた思いで手を打った。

「どうもそこんところがとっつあんもおまささんも飲み込めねもんで・・・・・
なるほどそう言う事になりやすか」

「恐らくは彦六にその辺りを吐かせ、後腐れのねぇ様に始末したんだろうぜ」

「なんてぇ汚ぇ野郎だ クソいまいましい」
粂八は吐き捨てるように役宅の床の下を睨んだ。

「よし明日から早速その渡海屋を見張れ!見はり場所も忠吾に申して確保いたせ」
てきぱきと粂八に指図を与えて平蔵、奥に引っ込み、
何やら筆頭与力の佐嶋忠介に指示を与えた。

だが、この事件は一足遅く、その夜半に渡海屋は兇賊によって襲われ
金蔵が天井裏から破られ金子千五百両あまりと藩札三百両分が消えていた。

菊川町の盗賊改めに知らせが入ったのが、平蔵が指示を与えた翌日
素早く平蔵は南町奉行所に通報し、上方行きの船を一斉検問した。

運良く目的の菱垣廻船が捕まった。

意気揚々と踏み込んだ佐嶋忠介は、何一つ証拠になるものを見出すことが叶わず、
南町奉行所町方より
「放免致すよう」
と促され、涙をのんでこれを釈放した。

報告を聞いた平蔵
「何故だぁ 何故盗んだ金が出て来ぬ!
我らがそこまで知り抜いていたことは奴らには判っては居らぬはず、何故だぁ・・・・・・」

「盗んだ金をどうやって運び出す、千両ともなるとかなりの物、
なかなか隠し果せるものではないはず・・・・・・」

(んっ!・・・・・・そうか!奴らは運んじゃぁいねぇんだ!)
「おい 佐嶋!佐嶋はまだ来ぬか!
そこへ佐嶋忠介急ぎ自宅から駆けつけてきた。

「お頭!!」

「おお 佐嶋聞いたであろう!」

「はい 先ほど粂八が繋ぎを取ってまいりまして・・・・・で、何か?」

「うむ 奴らは金を運んじゃぁいねぇんだ、金はまだ江戸のどこかに隠してあるに違いねぇ」

「はぁ この江戸にでございますか」

「なるほど二つ名の異名を持つだけのことはある、こいつぁ切れるなぁ」

「で? お頭は金の隠し場所がお判りになられたので?」

「うむ 恐らくはなぁ、のう佐嶋一番気が付かぬものは何だえ?」

「はぁ いつも身近にありて、左様なことを想わぬ・・・・・あっつ!」

「そうよ、そこよ!俺もこいつにゃぁ気が付かなんだ、
当たり前ぇ過ぎて見逃すところよ、おい粂八が参っておらぬか、
いたらここへ呼んでくれ」と沢田小平次に指図した。

すぐ返事があり、粂八が裏の枝折り戸をくぐって入ってきた。

「おお 粂 ご苦労ご苦労、でお前ぇは彦六が鼠の巣をどこに始末したか
聞いちゃァいねぇかい?」

「へい あっ そういやぁ彦六の死体があった日本堤の山谷堀の・・・・・えっつ!」

「そうだよ、そこだと俺は睨んだ、
人間てぇ者ぁどうも事件の火種の起きたところに舞い戻る習性があるようだぜ、
一度お上の手が入った場所にゃぁ二度と手入れぁねぇ!そう奴は踏んだのだろうよ、
ほとぼりを冷ましてゆっくりと掘り出しても決して遅くはねぇ、そうは想わぬか佐嶋」

「なるほど灯台元暗しと申しますからなぁ、早速現場に参り当たってみます」
と佐嶋は粂八を伴って出て行った。

その夕刻
「おおかしら!やはりお頭のご推察通り、金子と藩札が油紙に丁寧に包まれて
三尺程の穴の中に眠っておりました」と報告が上がった。

ネズミの習性とおんなじよ、くわえ込んだらまず隠す、
なぁうさぎ、お前ぇも隠す割にゃぁばれちまうがな」

「はっ! 何のことやら私には・・・・・」

「おうおう 心当たりはないと申すか」

「はい 一向に左様なことはござりませぬ」

「さようか、 それなればよいが、先日お前ぇを山谷の岡場所の・・・・・」

「えっ! 又誰がそのような、滅相もござりませぬ、私はただ・・・・」

「ただ?・・・・・どうした」

「はぁ ただ そのぉ 通りかかりましたらそのぉ・・・・・・」

「白粉女が声をかけてきて、そのままなすがままと」

「はぁ全くその通りで、ですが私は何もそのようなつもりで・・・・」

「であろうよ、そのまま一時身を休めたということだな」

「ははっ まことに申し訳もござりません、この木村忠吾一生の不覚」

「であろう もう何度不覚を取ったやら ヤレヤレ見上げたもんだよ屋根屋のふんどしかぁ」

「はぁ~・・・・・・」

「いや何な てェしたもんだよカエルのションべンと申してな、
お前ぇのように面にションベンかけられても動じねぇ・・・・・
いやぁてぇしたもんだなぁ佐嶋、わは わはは わぁっはっは」

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