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鬼平犯科帳 鬼平罷り通る
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獺祭
娯楽時代劇でも長屋の徳松が拙い文字で手紙を書くシーンが出てくるが、
当時江戸の識字率(就学率)は江戸末期において武士は100%
読み書きできたし、庶民もほぼ50%は読み書き出来ており、
世界第1の識字率国だった。
獺祭魚(だっさいぎょ)獺(かわうそ)は、
とらえた魚を川岸に並べる習性がある、
これを見て人はカワウソが先祖に供物を供えていると言うようになった。
唐後期の詩人“李商隠”は詩作の際に多くの参考書物を並べて置き、
又自らも獺祭魚とか獺祭と号した。
火付盗賊改方同心横内雅之、忠吾いわく(かわうその雅ちゃん)
剣術の方は木村忠吾が「私の敵ではございません」
と、うそぶくくらいであるからまぁ推して知るべし。
だがこの男盗賊改めには欠かせない人物ではある。
というのも字名(あざな)のごとく、大の読み書きが好きと来ている。
お調書を任せれば他の追随を許さない。
何処からそのような内容を探し見つけてくるのか、まるで書物蔵の主。
平蔵をして
「アヤツの頭ん中ぁいっぺんで良いから覗いてみてぇもんだ」
と言わしめるほどの確かさで、
与力天野甚蔵なぞは
「彼奴には夜ともなれば尻尾が生えておるのでは」
と、こうなると狐狸の類となってしまう。
その横内雅之、奉行所よりのお手配書を丹念に調べていたが
「お頭、角鹿(つのが)の喜平次一味が御府内に入り込んだ模様と
御座いますが、何かそれらしき動きは掴めておるのでございましょうか、
これによりますと敦賀(つるが。福井県)辺りを縄張りにした
兇賊とございますが」
「うむ 儂もそれは目を通したが、
今のところそれらしき話は密偵共からも聞いては居らぬ」
角鹿(つのが)の喜平次の話はこの時出たのが初めである。
神田川に架かる東筋違御門を北に上がった花房町
“紀伊國屋漢薬局”傍にある小さな裏店の貸し本屋
“獺祭亭(かわうそてい)”。
貸本といっても新書・古書・参考書・流行(はやり)本・
枕本など本に関するあらゆるものが1軒の店で扱われるのが普通であった。
特にこの獺祭亭は古書が豊富で武家屋敷などから出される古書や文献、
史書が多く、店は2つに区切られ、片方は艶本から黄雑紙、絵草紙、
錦絵などを揃え、残る片方には古書、新書などが並べられていた。
外からでも内部が見えるようにと柿渋の軒暖簾に“かわうそてい”
と染め抜いた軒暖簾を掛け、下谷御成街道に“出し看板”を置き、
それには「古本売買御書物處かわうそてい」と書かれてあった。
店の通りに面した戸板には、小さな窓が繰り抜かれており、
通行人はそこへ使用済みの屑紙、鼻紙なぞを放り込んだ、
獺祭屋はあとでこれを回収し古紙回収業に販売していた。
本屋に限って言うと、東向きか北向きに店を構える、
これは表紙焼けを起す日差しを嫌ったからである。
火付盗賊改方密偵の“おまさ”はここで横内雅之をよく見かけたものである。
この日も夕刻間近、昌平橋を北に上がった薪河岸(湯島横町)
を浅草の方へと戻っていた所を泉橋のたもとで横内雅之を見かけたのである。
別に声をかける必要もなくそれはそれで通り過ごした。
本所の盗賊改め方役宅に戻ったおまさ
「今日も横内様のお姿をお見かけしました」
と少し笑い顔を交えて平蔵に報告した。
「なんと!またもや奴め、本漁りかえ?
ちったぁ忠吾めの爪の垢でも飲ませねば、のぉ わははははは」
そこへ話題の主、木村忠吾が入ってきた。
「お頭木村忠吾只今戻りました!
ところで何やら私めが何とかとか聞こえてまいりましたが、
何か然様なお話でも?」
「おっ うっ いやぁ何でもねぇよ なぁおまさ」
「うふふふふ」
平蔵の慌てようにおまさ、思わず口元に袖を寄せて下を向いた。
「あっ どうも怪しゅうございますなぁお頭の今の生返事は」
と忠吾鋭い突っ込み。
「うんっ いやどうってこともねえょ、
お前ぇの爪の垢でも煎じて飲ませれば、
横内も少しはおなごを振り返るようになるやも知れぬと、
まぁそういうこった」
「あれっ 私はそれ程おなごを振り返ったことはござりませぬお頭!
それは大きに誤解と申すもの・・・・・何でおまさまでが・・・・・」
忠吾少々お冠の様子
「あっ いや儂が悪かった!
なぁ忠吾お前ぇがおなごを振り返るのではなくだなぁ、
おなごがそれ!お前ぇを振り返させるだけのこと、わははははは」
「あっ いやぁどうも・・・・・
えっ?それでは同じことではござりませんか、全くもう!」
「おお ところで忠吾、町廻りでなにか変わったことはなかったかえ?」
「はい 本日も穏やかな1日でございました、
このままかような日々が続けば宜しゅうございますなぁお頭」
「ふむ そうさのぉ・・・江戸の町にはそれが良い、
だが お前ぇたちはお払い箱で、元の組に戻らねばならぬ」
「あっ それはいけませぬ!それは宜しゅうございませぬお頭!
何と言うても我らは火付盗賊改方でござりますから」
「やれやれ やっとそこに気づいたのかえ?」
「ところで忠吾、横内は戻っておったか?」
「はぁ横内さんでございますか?
私が戻りましたるおりにはまだ姿は見えておりませんでございます」
「ふむ・・・・・・
まぁそのうち追っ付け戻るであろう、あい判った下がって良いぞ」
「ふむ 何処で道草を食っておるやら・・・・・」
それから間もなくして同心横内雅之が戻って来
「横内雅之只今戻りました」
と報告に上がった。
「おお 横内 本日は如何であった?」
「はっ? 如何と申されますと・・・・・」
「だから 如何であったかと聞いておるのじゃ」