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鬼平犯科帳 鬼平罷り通る 三嶋山燈

鬼平犯科帳外伝

鬼平まかり通る   雀の森 3月号

「あっ!ははっ!」


銕三郎その言葉通りすぐさま指を(くわ)()めた後立ててみる。


風は川の方から這い上がってきている様子である。


「こちらは風下にあたりますね」


そう言い終わるのを待つまでもなく宣雄、すでに風上へと動いていた。


(さすが親父殿は…)宣雄のその対応の素早さに目を見張ったものである。


「よいか銕!この立ち位置から何が判る?」


(ははぁ親父殿は俺を試そうと……よし、ならば)と


「父上!ここより検分出来ますことでは、身なりは町家の者で、
衣服が腹のあたりで切り裂かれて観えますゆえ、辻斬りの仕業かとも…。
ただここからでは血もさほど多く流れておらず、肉色も白く、
死後の経過は朝露に濡れた血の色からも、さほど経ったとは想えません。
もしや殺害されここに打ち捨てられたとも想われます」


と答えた。


宣雄その答えを待ち


「うむ、よく視ておるのぅ、夏ともなれば一晩でも肉叢(ししむら)は少々黄ばんでくるもの。
まずまずそれで良い。おい銕三郎、お前と松三でこれを通りまで運び出せ」


と指図する。


「えっ!!」


二人共顔見合わせ一瞬戸惑いを見せるそれに


「何をしておる!早く致せ、ここで検分する事はならぬ。何事も衆人の
目の前で為さねば、後々疑いを残さぬとも限らぬからな」


宣雄手早く指図し、二人は両手足を抱えて骸を担ぎ出し、道端に横たえさせる。


「よし誰か戸板を借りてきてはくれぬか!」


宣雄、あたりを見渡し催促すると、暫くして番屋へ引き返したのか
戸板が運ばれてきた。


運び込んできたそれを借り受け、そこへ骸を横たえさせ、
銕三郎と木場の松三が前後を抱え番屋まで運び込んだ。
これを番屋の中へ仮置きさせ


「うむ、まずは面上からだな。よいか銕三郎、顔の具合はどうだ?」


そう言いながら銕三郎を見やる。


「はい、口を開いておるものの、肌の色は白く化粧(けわい)っ気もまだ十分に
残っております」


「然様か、で?」


「はぁ?」


銕三郎その後が出てこない。

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