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鬼平犯科帳 鬼平罷り通る
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「女は何を挿しておる?」
「はい、銀の打ち物(簪(かんざし))にございます」
「他には!」
「はい、櫛(くし)、笄(こうがい)に髪もさほど乱れてはおりません」
「懐はどうじゃ?」
銕三郎懐から十手を取り出し、その先で女の懐を上げてみる。
ふくよかな胸乳が少し覗き、それらしきものが十手の先に触れた。
それを掻き出してみると、こちらも手付かずである。(という事は)
「物取りが目当てではないと?」
「そうだ!では十手を口に差し込んでみろ」
「えっ?口にでございますか?」
「そうだ!そこへ、その打ち物を差し入れてみろ、暫くの後銀の色が変われば
そいつぁ石見銀山の毒と想わねばならぬ」
「あっ!……」
(そういうことなのだ)銕三郎思わず唸った。
だが想いのほか口に十手が入らない。
観ると舌が大きく口いっぱいに膨れ上がり、
中には容易に飲み込んでくれそうにもなく、宣雄には死後の硬直と見て取れた。
銕三郎、そこへ無理やり抜いた女の銀簪(ぎんかんざし)を差し込む。
「その間に胸を開いてみるが良い、傷はないか?」
「はい、それらしき痕は何も」
(それにしてもまだ三十歳半ばと見えるこの骸(むくろ)は初々しくさえ見て取れる。
「乳首の色はどうだ?」
「えっ?乳首の色──で」
よく見ればすでに血の気は失せて褪(さ)めてはいるものの、
淡い桜色であったろう事は容易に想わせるに十分なふうである。
「はい、綺麗にございます」
そうとしか答えようもなかった。
(まさか白首女郎のものとは違います、なぞと言えたものではなかったからだ)
「そうか──。では帯を解け」
「はっ?帯をでございますか?」
銕三郎思わず鸚鵡(おうむ)返しに問い返した。
何しろ、いくら死人であっても人前での丸裸を晒すのには些か抵抗もあった。
「何を致しておる!早く致せ!」
宣雄は急き立てる。
銕三郎しぶしぶ女の帯を解き、それらをはだける。
真っ白であったであろうその躰は、陽光の下、惜しげもなく晒されている。
剥ぎ取った瞬間銕三郎驚きの声を上げる。
「まままっまさか!」
下腹部が真一文字に掻き切られていたのである。
着衣の状態からも抜き、胴に払い切られたであろうとは想っていたが、
銕三郎の驚きの声に固唾をのんで見守っていた衆人も驚嘆の声を上げた。
「銕三郎!その胸乳の下を臍(へそ)の下辺りまで触ってみろ」
「腹にございますか?………こうで?」
宣雄の顔を伺いながら銕三郎、女の腹に手を触れた。
切り口を境に少し感触が違う。
「どうだ、硬いかそれとも柔らかいか?」
意味ありげな顔に銕三郎、再度真剣に触れてみる。
「はい、臍の上辺りが少々硬ぅございますがそれがなにか?」
「うむ、硬ければ孕(はら)みがあると視ねばならぬが、
柔らかいのであらばそうでないと判る。
この中に取り上げ者(産婆)はおらぬか?」
宣雄、衆人を見渡しそう言うと
「へぇここにおりますだ」
と、群れの中から六十過ぎと見ゆる老婆が名乗り出てきた。
「おお、よし!ならばお前に頼もう」
そう言うなり宣雄、懐から手ぬぐいを取り出しビリビリと裂き、
老婆に差し出し
「こいつを指に巻き火処(ほど)(陰門)を探り、
中に何んぞ隠されてはおらぬか検(たしか)めよ」
と言い渡した。
「へぇ始末を調べるのでございやしょうか?」
老婆は宣雄の言う意味を判じたのかそう言葉を返す。
「そうだ!堕胎させてそこへ何かを押し込むことも想われる故な」
こともなげに告げ、
「どうだ何が判った?」
と問いただす。
老婆は陰門に差し入れた指を抜き出し
「これぁ……」
と宣雄を振り返る。その指先に乳白色のものが付着していた。
「ふむ、事を為した後という事だな、ご苦労であったな。
銕三郎その女の喉辺りをよく見ろ、締めた痕はないか?」
宣雄、どんどんと検視を奥深いところへ探り込む。