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鬼平犯科帳 鬼平罷り通る
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京入
長谷川平蔵宣雄は少し遅れた十一月十一日東海道を銕三郎妻女久栄や嫡男辰蔵に
与力・同心に小女・小者など少人数をともない馬で入り、粟田口蹴上(けあげ)に着いた。
出迎えを受けたのは、京都町奉行目付方与力一向。
「これは長谷川様、遠路はるばるお勤めご苦労に存じまする」
「これはまた、ご丁寧なるお出迎え痛み入ります」
馬上より下馬した宣雄、出迎えた面々に軽く頭を下げ、ゆっくりと見回す。
慇懃ではあるものの、その奥に冷ややかな物を感じ取った宣雄、さらりと受けて流し,
迎えの乗り物に銕三郎妻女久栄と嫡男辰蔵を乗せ、一路西町御役所へと向かった。
東町御役所(奉行所)は西町御役所の直ぐ傍、押小路通大宮西入る神泉苑西隣にあった。
此処は元々五味備前守屋敷蹟に建てられた物。
東町奉行酒井丹波守忠高へ新任到着の挨拶に上り、後、西御役所(町奉行所)に入った。
旅仕度を解く問も惜しみ宣雄、引継の経過を銕三郎より受ける。
「父上、長旅ご苦労様にございました。太田様よりお引き継ぎいたしましたる事の中、
くれぐれもと申されたものにございます」
と大田正清より託された手控え帳を差し出した。
銕三郎の差し出す手控帳を読み進める険しい宣雄の顔を一瞬で見取り
「父上早速なれど余程の事と想われます」
と、過日太田正清から受取ったおりの事を、つぶさに語った。
「銕!心して聞け、この手控に記されておる事は他言無用と心得よ、
してこの者は只今いかように──」
宣雄、当時者の手控帳がここにある事を訝(いぶか)しく感じたようで、
銕三郎の応えを待った。
「殺られました…」
「何と!」
驚きと共に(それ程事は根深い物になっていたのか…)
宣雄、手控帳を手にしたまましばし宙を見た。
「かなりの遣い手のようで、応ずる間もなく真っ向から一太刀だったそうにございます」
その時物の割れる音がし、部屋の外、
廊下で茶を捧げて来た久栄が、聞えて来た話しに驚き、碗を落とした模様であった。
その音にこちらでも驚いて襖を開いたそこに、
蒼ざめた顔の妻女久栄がぶるぶると震えていた。
「やっこれはしたり、驚かせてすまなかった」
奥から舅(しゅうと)、宣雄の労わる声を背に、
銕三郎が飛び散った碗の欠片(かけら)を拾い集め、
懐紙に茶を吸わせている久栄の手を取り、
「案ずるな、案ずる事はない」
と気を落ち着かせるベく中に入れた。
「義父(ちち)上様、こたびの御勤めは然程にあぶなき物にございますので…」
舅(しゅうと)の目を見上げたまま、今だ少し震える声で尋ねる。
「案ずる事はない、よいか久栄!そちは辰蔵が事を守ってくれればよい、
後の事は儂と父上にまかせておけ。よいな」
「銕さま……」
久栄は不安な面持ちを隠せない